076_話17(販売員さん)

私はとある民間の神道を深く信仰していた父方の祖母の影響からか(自分でも真の理由はよくわからない)、人間については、できる限り自然な有り様が好ましいと思うところがあった。

そして、元々は比較的髪質が固く、毛髪も多めだったので、長髪にすることはなかった。

結局、今まで女性のような長髪には、 1 回もしたことがない。

少しでも放置ぎみに髪を伸ばすと、メチャクチャになり、髪型が歌舞伎の定九郎みたいだと父親に言われたことがあった。

自分でも髪を伸ばすのが面倒くさいし、洗髪するのも、乾かすのもかなり手間がかかり、ちょっと疲れる。

自然な有り様が好ましいと言っても、元々、男性が女性のようなあからさまな長髪にすることは嫌いだったし、第一ちょっと伸び気味になっただけでも、フケやら、洗髪やら、整髪やらに相当に手間がかかった。

という訳で、ある程度伸びたら、スポーツ刈りよりちょっと長い程度に切るだけの短髪にするように結果的になっていった。

そもそも、ネックレス、ピアス、アクセサリー、茶髪、入れ墨(タトゥー)などの、男性のおしゃれそのものが、大っ嫌いだったこともあるんだけどね。

そして年齢を重ねて、体の不可抗力の重い不調がいくつも出てきて、女性にはまったく縁を結べないと、絶望というか、どうでもいい(両親には申し訳なかったけれど)と思いかけてきてからは、髪質がやや弱くなり、髪が伸びると髪自体に変なクセがつくようになってしまった。

だから、ある程度伸びたら、なるべくすみやかに短髪にしてしまうのが常だった。

実際、このスポーツ刈りよりちょっと長いくらいの髪型は頭を洗うにも乾かすにも、きわめて楽チンこの上なくて、面倒くさがりの自分にはもってこいだった。(*1)

そんな折、他人を不快にさせないための最低限の清潔感にだけにはそれなりに気をつけていたものの、様々な体調の不調、さらに数年前からその他親類のゴタゴタも重なって、また頭がややボサボサ気味の時期が増えてきた。

そんな時に、あるデパ地下の惣菜売場の沈菜館(きむちかん)で、憂さ晴らしのヤケクソで、白菜・大根・キュウリなどのキムチといった刺激的な辛いものや、キンパやプルコギキンパなどを時々買うようになっていた。(*2)

販売員さん達(女性)は、どうも韓国の人のようで、ピンク色か明るい黄色の下地(シャツかブラウスかよくわからない)に紫(それとも濃紺?)の上掛け(?)の独特の民俗衣装らしきものを着ていた。

容貌は日本人と変わらないと感じたが、話す日本語の抑揚(イントネーション)や話し方の滑らかさが明らかに日本人とは違っていたので、韓国の人なのだろう( 1 回だけ、彼女達が母国語で速射砲のように私語(?)を話しているのを目の当たりにしたことがあるが、チンプンカンプンで何を話しているのかサッパリわからなかった)。

中には学生さんみたいな若い人もいたが、彼女達は、特にハデな化粧をしているようには思えなかったし、いわゆる、オルチャンメイクのような、いかにも日本人とはちょっと違うな、という感じもしなかった。

コロナの少し前くらいに、ちょうどマスクを外しはじめていて、もうその沈菜館の入っているデパートの閉店がまもなくと決まってからのこと、モサモサ気味のだらしのない髪型から短髪に変えた時に、販売員さん達に言われたことがあった(この時販売員さんは 2 人組だった。だから、言いやすかったのかな)。

「イメチェンしたね、イメチェン。

それがいい、イケメンだよ、イケメン。

ずっとそれでいて下さいよ」と。

韓国の女性は、韓流のようにかなり背の高い(おそらく 182 cm か 183 cm 以上)、いかにも女性的な色白な風貌の優男(?)が好きなのかとばかり思っていたので、ちょっと意外だった。

自分は背は高めでも元の 181 cm よりだいぶ縮んでしまったし、長年の病気や経年のせいで、幼少時からの色白ではなくなってしまっていたから。

あと、これはこの二人とは別の女性だけど、買い物をすると、いつもほんの少しのオマケを、サービスとしてつけ加えてくれた人もいたな。

彼女が他県の別デパートの沈菜館に移ることになった(彼女が教えてくれた)ので、少額ながら商品券とお礼の手書きの短い手紙(長い手紙は意志疎通が難しいと思ったので)を一筆書き添えて渡したよ。

外国人さんとはいえ、女性によくしてもらったことは、本当に嬉しかったからね。(*3)

ただ。

日本人の女性もかなり、クセが強いというか、癇(カン)が強い人が多いと感じるが、韓国の人も大体はそんな感じがしましたね。

内面はまったくわからないけど。

この人は、比較的おとなしそうかな、と感じたのは、数人中、一人しかいなかった。

その他の方々は、何となく気が強そうな感じがしましたね。

わざわざ異国まで来ているから、バイタリティーもあるだろうし、やはり、女性はカンが強いのは、アジアをはじめとして、ある程度世界的に共通しているのかな。

あまり、ヘラヘラ、ニコニコしていたら、男に付け入る隙を与えてしまうから、ということなのかな。

だから、あらかじめ強い予防線というか、バリアを張っている、オーラを漂わせている、と。

「キッ」という時たま垣間見える独特の表情は、女性特有(万国共通?)に思えますね。

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(*1)だから私は、男性の長髪の人達や女性のショートヘアでない人達の髪の手入れには本当に感心してしまう。

よくあんなにきれいに手入れができているな、最低限の身だしなみが大事だからとは言っても、よくできるな、怠け者の自分には到底真似できそうにないな、とつくづく思うから。

(*2)キンパやプルコギキンパは、日本の太巻きを韓国風にアレンジしたようなものに見える。

はじめは太巻きだと思ったくらいだ。

見た目は日本の太巻きにそっくり。

よく見ると、微妙に違うけど。

中身が多少異なるのよ。

キンパには大根が、プルコギキンパには少量の甘辛い味つけの焼き肉やレタスなどが入っている点が、日本の太巻きとは違っている。

日本の太巻きが和風サッパリで、素材を活かしたほのかな味つけの美味しさなら、韓国のプルコギキンパの味つけは、ややギトギトした甘辛い味つけの美味しさと言えるのかもしれないな。

(*3)韓国人の女性は性格がキツイという人もいるけれど、日本人の女性とは異なり、外国人さんである分、腹の探り合いというか、駆け引きはさほどないと思ったので、たとえ些細なことでも、よくしてくれたことは、本当にありがたかったし、素直に嬉しかったのさ。

ほんのかすかに袖振り合うような縁であったとしても、やはり、最低限のお礼はどうしてもしておきたかったこともある。

たとえ、おまけのサービスだとしても、ただただもらいっぱなしという訳にはいかなかったからね(彼女は最初の 1 ・2 回(?)以降は、毎回、ほんの少し( 50 g以下(?))だが、ちょっとしたオマケをつけ加えてくれた。悪いから断ろうとも思ったが、ご厚意は素直に受けることにした。その代わり、(辛い刺激物を避けて)キンパなどを多目に買うようにはしてたけどね)。

本当は自分の病気からすると、刺激物はよくなかったのだが、たとえ少量でもそうしたものを食べたりして気分をまぎらわせないとどうにもならないつらい精神状態があった。

競馬と競輪と競艇はやったことがないし、なぜかやる気が起きなかった。

麻雀とパチンコは、体力を使い健康を損ない、ものすごく疲れるし、金もないから、今の自分にとっては身の破滅にしかならない。だから、今はまったくやる気になれない。

そんな時の憂さ晴らしの買い物で、思いもかけず異国の女性から優しく接してもらえたのは本当に嬉しかったんだ。

世界平和の祈りとともに、彼女達の健康と幸運と天命がまっとうされることを陰ながら願っている。