067_話08(儚い初恋)

高校に入学して同クラスに、好きになった女子 W さんがいた。

やや丸みを帯びた、いかにも上品な日本人形的なやさしい面持ちで、スタイルも抜群(スレンダーではなく締まったグラマー系)、勉強も運動もできる人だった。

目元パッチリ系というよりも、黒目がちで穏やかでやさしい雰囲気をたたえた顔だった。

それだけ、西欧型の体型とのギャップが、またたまらなかったね。

自分には高嶺の花というか、かなり上位の人に思えたので、相当な劣等感を抱かされ、気軽に近づけないな、と勝手に考えていた。

声も艶っぽい響きがあり、とにかく魅力的だった。

いまだに、◯◯くーんといった彼女の声の感じを何となく覚えているから、男は本当に現実ばなれして夢見がちなロマンチストだなと思う。

まあ、高校生だったから、女子の現実やしたたかさをまったく知らなかったこともあるが、それにしても子供っぽいよな。

ただ、彼女は女子にしては珍しく、あまり群れたりしない人で、やたらに手を繋いだり、群れたがる女子が大半の中では、ちょっと異質な存在だった。

自分も友達はいたが、あまりつるんだり、群れたりするのが、さほど得意ではないというか、それほど好きな方ではなく、一人でいることがまったく苦にならなかったので、何か似たとこあるのかな? などと勝手に思い込んでいた。

こんな自分でも彼女は普通に接してくれていたから、その点は内心とても嬉しくてたまらなかったのだが、残念なことに、自分の表出する態度は内面とは裏腹に、不自然でギクシャクしてしまい、表情もこわばり、どうにもならない。

他の女子には普通に接することができるのに、彼女に対してだけは、どうしても普通になれない。

好きでたまらないのに。

いわゆる、今でいう好き避けだったのだが、私はそのたびに落ち込んで、彼女からは嫌われないまでも(彼女の態度は変わらなかったから)、変なヤツと思われているかもしれないと思うと、何とも情けなく悲しかった。

子供や学生の頃の恋なんて思うようにならないよな。

ただ、後から男子の友人から聞いたのだが、彼女も私のことを気にはかけていたようなので、それを知った時にはなおさら激しく後悔したな。(*)

フラれても何でもいいから、何で話をしておかなかったのだろう、一言でもいいから、と。

内心は、個別に話をしたくてたまらなかったのに、話をしなくても一緒にいたくてたまらなかったのに、何の接触もないままに、2 年後に別クラスとなってしまった。

本当にバカだよな。

ほんの少し口をきくだけでも、ほんの少し一緒にいる時間がとれるだけ、たったそれだけでも幸せを感じることができたはずなのに、それさえも果たせず、疎遠になってしまった。

自分の情けなさのために、淡い恋は自滅したという形。

だいぶ後に、1 回だけコンパで会ったことがあるのだが、彼女がわざわざ隣に座ってきてくれたにもかかわらず、やはり、何もできずじまい。

本当に意気地なしで、自分が情けない。

旧友達が彼女を囲むように放射状に数人集まってきて、何だかんだと彼女の気を引こうとしていたから、あれはみんな彼女に気があったんだな。

まるで、密に群がるアリのような感じだった。

ただ、他の女子はあれを見たら、あまり面白くなかったんじゃないかな。

やはり、人間だから、嫉妬や敵意、場合によっては憎悪すら抱くこともあるかもしれないから。

まあ、魅力的な彼女のことだから、若くしてほどなく家庭を持って幸せに過ごしたことだろう、と勝手に思っている。

というのも、小学生からそうだが、女子(女性)にはカンやクセが強く、こう言っては悪いが、明らかに性格の悪い子を何人も見てきていたからだ。

しかも、お世辞にも誉められない自らの容姿は棚にあげて、「コイツ(ごめんね)は一体何様なんだ!」という女子が何人もいた。

小中学生くらいの時には、かなりはっきりと地金(本性)があらわれやすいので、性格の悪さや、わがままがモロに出やすい分、そうした性格面の欠点がわかりやすかった。

この性格の悪さには、容姿はまったく関係がなかったね。ただ、彼女のように秀でた容姿の子には、そうした子はいなかっただけだ。

たまたまかもしれないが。

その点、彼女からは、そうした性格の悪さやカンの強さをまったく感じたことがなかった。

外見的魅力も申し分なかったから、多分、男が放っておかなかっただろう。

普通の男性でも熱心にアプローチすれば、彼女なら素直に受け入れただろうと思われた。

今はどうしているかはまったくわからないし、だいぶ時間が経ってしまったが、彼女の天命がまっとうされることを陰ながら祈っている。

まあ、とにかく、ひたすら世界平和の祈りをするしかないな。

~~~~~

(*) 3 年生の時に、ある親しい友人と彼女の話になった時に、私が「彼女は俺なんか眼中になかっただろう」と言った時に、彼が「あったんだよ」とかなり語気を強く言い返したので、彼には何らかの形で彼女の気持ちを知ることがあったらしい(多分、彼も彼女に気があったのだろう)。

私も何で彼がそんなことを知っていたのか、あまりにも意外だったので、詮索せずじまいに終わってしまった。